~ 腕時計を中心とした 欲望に連敗続きの物欲日記 ~

時計に関する特許を読む。 セイコー編 その2

 

時計の知識を深めるために読み始めた時計の特許。

 

今回はセイコーインスツルが考案した、

「保油機能のあるガンギ車」に関する技術です。

 

————————

出願番号:特願2009-3612

出願人:セイコーインスツル株式会社 (日本国)

発明の名称:摺動部品及び時計

課題:本発明の課題は、潤滑油保持構造と、相手部品との接触角度に因らず

潤滑油を供給する構造を有する、耐摩耗性の高い摺動部品を提供することである。

————————

 

 

さて、よく機械式時計では、いかにゼンマイのパワーをロスさせずに

テンプまで力を伝えるかという、その問題がいつも付きまといます。

 

その理由はもちろん、テンプを元気よく振らせるためです。

 

テンプが元気よく振れるのが何故良いのか?

 

それは外乱に影響されづらくなるからです。

「外乱」とは、振動や時計の角度によってテンプが受ける重力に対する

振り角の変化(姿勢差)ですね。

 

機械式時計の、時を刻む原理は『振り子』ですので、

その動きが絶えず一定で安定しているほうが精度に影響は出ません。

 

ですから、ゼンマイのパワーが無駄なくテンプに伝わるのが理想なのです。

 

 

しかし、機械というのはどこかしら物と物とが触れ合っており、

その部分の抵抗などでパワーが損失されてしまいます。

 

その代表的な部分が、脱進機であるガンギ車とアンクル爪石の擦れでは

ないでしょうか。

 

 

おさらいとして、脱進機の動きは下のようになっています。

(Flashが閲覧できる環境でご覧ください)

 

擦れる部分というのは青丸の部分ですね。

seiko-vol2-01

 

この青丸部分でガンギ車がアンクルを押し上げてアンクル竿を左右に振らせ

テンプに右回転、左回転の力を交互に与えているのです。

 

 

そこで問題になるのが「摩擦」です。

 

この境界面にはオイルが必ず塗られていなければなりません。

ですが、この部分は現代的な時計であれば、毎時21,600~28,800振動、

すなわち片側の爪石でそれぞれ毎分180~240回も擦れていることになります。

 

これではオイル切れにより振り角が落ちてしまうのは想像に難くありません。

 

そこで、セイコーが考えたのが「ガンギ車の衝撃面に溝を設けて、そこにオイルを

溜める」という方法でした。

 

 

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【発明が解決しようとする課題】

【0004】
特許文献1に記載されている構造では、摺動部が平滑のため、潤滑油を使用したとしても、潤滑油が摺動部に留まらず、分散する可能性が高い。

【0008】
本発明の目的は、相手部品との接触角度に因らず潤滑油を供給するための潤滑油保持構造を有する、耐摩耗性の高い摺動部品及び時計を提供することである。

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seiko-vol2-02

 

 

セイコーが試みた解決方法は至ってシンプル。

ですが、効果は大いに期待できそうです。

 

実はこちら、特許をただ取得しただけではなくて、

実際にもう使われているんですよね。

 

その時計は、私自身も何度かブログ記事内で欲しい欲しい言っている

10振動の「グランドセイコー メカニカル ハイビート 36,000」です。

 

seiko-vol2-03

 

 

肝心のガンギ車の形状は、特許のものと少し異なりますが、

果たそうとする目的は同じです。

 

seiko-vol2-04

 

seiko-vol2-05

 

 

この窪みの部分にオイルが溜まり、何もない平面時と比べて

オイルが急激に飛散してしまうのを防いでいるわけです。

 

10振動ですと片側の爪石に対し、毎分300回も摩擦が起こることになりますから

セイコーとしても本気で対策を施さなければならなかったのでしょう。

 

 

さらに調べましたところ、セイコーはこのような油保持の特許を

別の手法で、もう一ひとつ取得しているようでした。

 

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出願番号:特願2009-111230

出願人:セイコーインスツル株式会社 (日本国)

発明の名称:機械部品及び機械部品の製造方法

課題:側面の全面に亘ってムラ無く均等に潤滑油を保持することができる機械部品を提供する。

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こちらの特許は、溝を刻むのではなく、部品表面に複数の微細な穴を空けて

そこにオイルを留まらせようという方法です。

 

————————

本発明に係る機械部品は、電鋳により所定の厚みに形成された金属製のプレート体と、該プレート体の側面の全面に亘って凹み形成され、潤滑油を保持可能な複数の保油孔と、を備えていることを特徴とする。

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ガンギ車の図では、このようになっていました。

 

seiko-vol2-06

 

この方法ですと、コストはもの凄く掛かりそうですが

溝を刻む等の形状の変更はさせませんから、

あらゆるパーツに施し、一様に保油効果を持たせることができます。

 

特許の説明では、カンヌキばねにも処置を施していました。

 

seiko-vol2-07

 

 

なるほど、なるほど。

非常に興味深い方法ですが、やっぱり製造コストがネックになると私は思います。

 

 

 

というわけで、今回の特許に関する読み込みは、

ガンギ車と爪石の間の潤滑についてフューチャーしてみました。

 

うーん・・・

ガンギ車とアンクル爪の部分の保油については、

今後も永遠と考えられていくのでしょうね。

 

将来的には、解決方法として『いかに油を留まらせるか』、

もしくは『ガンギ車と爪石の接触がいかに少ない構造にするか

この2択というこになるのでしょう。

 

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