~ 腕時計を中心とした 欲望に連敗続きの物欲日記 ~

タイムグラファーに現れる二重線の謎 その2

 

以前書きました記事「タイムグラファーに現れる二重線の謎 その1」の続き

です。

 

時計修理技術読本や時計の問題集によりますと、下のようなタイムグラファー

の2重線は「片振り」を表しているということがわかりました。

IMG_2206

 

そこで、自分なりに整理したものをちょっと書きたいと思いますが、

まず、大前提として「タイムグラファーはどのようにしてグラフを出しているか」
ということから始めなければなりません。

 

測定器をお持ちの方はもうお分かり。

そう、「刻音」です。

 

時計のチチチチという音を拾い、始めに測定器に設定しておいた振動数と

計測したい時計とで、どれくらい精度に差があるのかということをグラフに

しているのです。

 

では、その音はどの部分の音?ということになります。

 

時計は脱進、すなわち「止めたり進めたり」を行っていますので、

機械の内部では様々な音が発生しています。

当然、小さい音よりは大きな音を拾って計測したほうが確実です。

 

時計で一番大きな音が出るタイミング。

それは、アンクル爪とガンギ車が衝突する音と、

アンクル竿がドテピンに当たる音が同時に発せられたときになります。

 

動画で表すと下のようなタイミングです。

(Flashが閲覧できる環境でご覧ください)

 

ここからが本題になりますが、

話を簡単にするために10振動ということで解説していきます。

 

10振動。

1秒間にアンクルが10回振れる。

1秒間にアンクルが5往復する。

1振動にかかる時間は0.1秒。

 

時計にとってテンプが規則正しく、左右均等に振れている状態というのが

正常な状態です。

下図のように、振り角全体に対してAとBの角度が均等になっている、

ということが理想です。

beaterror01

この時、タイムグラファー上ではどのようなグラフになるでしょうか。

 

図で解説していきます。

 

まず、最初の刻音が鳴りました。

beaterror03

テンプが右回転して入爪とドテピンが当たっています。

早速、音を拾い次の音を待ちます。

 

刻音2回目。

beaterror04

今度はテンプが左回転し、出爪とドテピンに当たりました。

 

ここでタイムグラファーは歩度の比較に入ります。

設定では10振動。

刻音と刻音の間は0.1秒のはずですので、

内部のタイマーの0.1秒との時差を比べて、それをグラフに表示します。

進み傾向であれば上に。

遅れ傾向であれば下に。

 

刻音3回目。

beaterror05

これも問題ありません。

 

 

このような調子でどんどん打刻していきます。

beaterror06

 

きれいな直線を描きました。

 

 

それでは、片振り(ビートエラー)が出ている場合はどうでしょう。

 

「片振り」とはテンプが左右均等に振れていない、

すなわち中心が左右どちらかに向いてしまっている状態を言います。

beaterror02

この状態での歩度測定はどのようになってしまうでしょうか。

 

最初の刻音は基準となりますので、グラフの中心線上にありますが、

問題は2音目からです。

beaterror08

左右均等で正常な振れとは違い、この図では少し右回転寄りにずれて

いますので、Aの角度が広くなっています。

当然、1音目と音の間隔は広がります。

仮に0.12秒かかったとしましょう。

これは「遅れ傾向」としてグラフに打刻されました。

 

3音目。

beaterror09

今度は、角度の狭いBの振れですので前の音との間は0.08秒です。

グラフには「進み傾向」で打刻されます。

 

このように、どんどん計測していくと・・・

 

beaterror11

 

2重線で表示されてしまいました。

 

確かに、片振りの状態では2重線がでるようです。

 

 

原因が分かればなんとも明快。

嫌なモヤモヤした感覚は吹き飛んでしまいました。

 

本当に知識と道具は大切!

 

 

ちなみにですが、下の図のようなグラフが出た場合、アンクルの片方の爪に

ゴミが付着しているか、爪自体に異常があるかもしれないということです。

beaterror12

 

コメント

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  • コメント (6)

    • chrono1940
    • 2013年 8月 16日

    自学自習でテスターの片振りの表示原理をここまで理解されるのはスゴい!学校で教わっても「ふ~ん」と聞き流すだけで結局全然理解出来てない人いましたから…(笑)。

    2892は非常に安定したムーブだけに、普通に洗って組むだけでそのまま綺麗な線が出る事が多く実戦でヒゲ自体を修正する機会は滅多にありませんが、多少の片振りだけは必ず修正が必要ですね。

    ちなみに、エタクロンでヒゲ棒の間隔を広くしたり狭くしたり…の「アオリ」の調整とは本来、全巻き時と振りが落ちた時の精度の誤差を小さくするためのものです。ヒゲ棒の間隔を広げた場合と狭めた場合。それぞれ全巻き時と24時間後に振りが落ちた時の歩度を比較して実験してみれば分かり易いと思います。
    \(^_^ )

    あ、エタクロン。回す専用工具、ETAから安価で出てます。傷を付けるリスクが無くなり非常に便利なので、是非材料屋さんでご購入をオススメ致します!
    (*´∀`)

    • NEEZ
    • 2013年 8月 16日

    chrono1940さん

    自分の場合、趣味で時計をイジっていますが、趣味=好き好んで時間とお金を
    費やしてやっていることですので、そこで疑問点が出てきたりするとどうしても
    解決したくなり、結局のところそれを「面白がっている」わけなんですよね。

    >2892は非常に安定したムーブ

    3針・自動巻き・カレンダー付きを勉強するには本当に良い機械です。
    ETA2824の方は、もっと精度が安定していると聞きます。

    >エタクロンを回す専用工具

    早速、型番を調べてみました。
    ETA Chron Stud Removing Tool:AF-015595
    確かにこれは1本あった方がいいですね。
    セイコーの6Rとかも回せるのかしら?

    • nola
    • 2013年 8月 20日

    Flash参考になりました!!

    ロシアで独学から初めて、指物のトゥールビヨンを作った人がいるようですよ。
    何事もやれば成果が出るものなんですね・・・。( ̄ω ̄;)

    gigazine.net/news/20130809-danevych-watch/

    • NEEZ
    • 2013年 8月 20日

    nolaさん

    ジョン・ハリソンも元は木工職人ですので、モノづくりの土台がある人は
    熱意と野望さえあれば何とかやってしまうんですね。

    さて、自分の10年後はどうなっているでしょうか。

    • NINJA300
    • 2015年 2月 10日

    ずいぶん前のエントリーで申し訳ないですが、「全巻き時と振りが落ちた時の精度の誤差」という症状がでる場合は、何に問題があるのでしょうか?自分の6R15がそういう症状になったので・・・もし、分かればご教示ください。

    • NEEZ
    • 2015年 2月 10日

    NINJA300さん

    いくつか想定されるケースがありますので、お力になれればと思います。

    まず「全巻き時と振りが落ちた時の精度の誤差」ということは、
    姿勢による等時性の差ではなく、パワーリザーブによる等時性の差ということですね。

    私の知る限り、時計が精度を出すためには”等時性”があることが条件で、
    腕時計はその等時性をテンプ&ヒゲゼンマイの回転運動によって得ています。

    そして、歩度(精度)は振り角によって変化することが知られています。

    なぜ振り角によって歩度が変化してしまうのかというと、
    その原因の一つに「緩急針との接触時間」の変化があります。

    通常、2本の緩急針のド真ん中にヒゲゼンマイと通すことを
    「両あおり」のセッティングと言います。

    ヒゲゼンマイは2本の緩急針の間を振幅運動するのですが、
    この両あおりセッティングを例にして歩度の変化をご説明しますと、
    通常、ヒゲが緩急針に接触している時間が増えるほど進み傾向なります。
    (ゼンマイ有効長が短くなっている時間が増えるほど進み傾向に)

    これが振り角の変化と大いに関係しており、
    元気よく振っている時(振り角が大きい)は緩急針への接触時間は長く、進み傾向に。
    パワーリザーブが落ち振り角が少ない時は緩急針への接触時間は短く、遅れ傾向になります。

    これが振り角により歩度に差が出る理由です。

    また緩急針には、シチズン系に多いとされる「片あおり」という別のセッティングもあり、
    これはヒゲゼンマイが緩急針の片方に接触している状態でのセッティングであるため、
    振り角が大きい時は、緩急針の接触時間は短くなり遅れ傾向に、
    振り角が落ちた時は、より長く緩急針に接触させることができるため進み傾向にできます。

    この「片あおり」は上手くセッティングすれば振り角の変化による等時性の差を
    少なくすることができるようです。

    実は調速に関しては自分もまだまだ勉強しないといけない、今後の課題です。
    調速の追及はそれだけで本が出るほど奥が深い沼ですね…

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