時計に関する特許を読む。 ブレゲ編
時計の知識を深めるために読み始めた時計の特許。
今回は、ブレゲが考案した巻上げヒゲの進化版、
「シリコン製ブレゲヒゲ」に関する特許です。
出願番号:特願2009-284038
出願人:モントレー ブレゲ・エス アー (スイス国)
発明の名称:シリコン系材料製のブレゲ・オーバルコイル・ヒゲゼンマイ
課題:シリコン系材料で作られ製造容易で、速度変動を低減できる
ブレゲ・オーバーコイル・ヒゲゼンマイを提供すること。
さて、通常「ヒゲゼンマイ」と言われたらパッと思いつくのは下のような
「平ヒゲ」でしょう。
このタイプのヒゲゼンマイはごく一般的で、殆どの機械式時計は、こちらを
採用しています。
そして、もうひとつ。
ブレゲが考案した巻き上げヒゲ、通称「ブレゲヒゲ」なるものが存在します。
こちらは、平ヒゲの持つ「ゼンマイが偏芯運動してしまい、天真がブレる」、
「偏芯運動により振り角によって等時性が崩れる」という問題点を解決した
ヒゲゼンマイです。
このブレゲヒゲは、ヒゲゼンマイの外端を持ち上げて内側に巻き上げています
ので、平ヒゲと比べて製造が難しく、高級ラインでしか採用されていません。
まさに、精度を求める上では理想のヒゲゼンマイと言っていいと思います。
しかし、各メーカーはメリットを重々承知していても、その独特な形状ゆえに
なかなか安価に量産ができず、今も平ヒゲを採用しているわけです。
また、昨今、広く使われるようになったシリコン製ヒゲゼンマイなどでは
下のような平面のウェハから作り出されているため、立体形状であるブレゲ
ヒゲは製造できません。
将来的にはシリコンのブロックから放電加工や電鋳加工を駆使して精製する
ことは可能でしょうが、それには一体いくらコストが掛かるでしょうか。
そこで、今回取り上げた特許の登場です。
ブレゲ社自身が、シリコン製ヒゲゼンマイでブレゲヒゲを作る方法を考案した
非常に面白い特許です。
まず、特許文章では先ほどの問題である、「現状、シリコンでは平面のヒゲ
ゼンマイしか作れない」ということに触れています。
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【背景技術】
時計部品をシリコン系材料で製作することは公知である。シリコンのような微小機械加工可能材料を使用することは、最近の方法、特にエレクトロニクスの分野の発達の結果として、製造精度の観点で有利である。また、磁気及び温度変化に対してシリコンが極めて反応しにくいことを利用することができる。しかし、これまでのところ、作られる部品が平坦でなければならない。
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下の写真はオメガのシリコン製ヒゲゼンマイを取り出す様子です。
やはり平面ですね。
そして、解決しようとする課題。
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【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、製造が簡単で速度変動を低減可能にするシリコン系材料で作られたブレゲ・オーバーコイル・ヒゲゼンマイを提供することにより、上述の欠点の全て又はその一部を克服することである。
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ブレゲの答えがこちら。
「平ヒゲと外端カーブを別パーツで用意し、段差を設けて接続する」
実に大胆ですね。
更に面白いことに、平ヒゲと外端カーブとの接続方法が3つも提案されて
いました。
まず1つ目。
特許文章の中では段差の部分を「持ち上げデバイス」と表していましたが、
その部分を、ヒゲ外端のエッチングされた凹部に接続するタイプです。
上から見ると、なるほど綺麗な巻き上げになってますね。
そして2つ目は、
持ち上げデバイスがピンのタイプ。
この持ち上げデバイスの接続方法は少し謎でして、
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接着材料、金属材料、酸化物、又は使用材料の溶融合金、或いはろう付けもしくははんだを含むことができる。
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と書かれていますが、下部は接着、上部は圧入のように受け取れます。
ただ1つ目の方式よりはトータル重量は軽そうです。
そして3つ目は、わざわざ別の特許で提案されていました。
出願番号:特願2009-254834
発明の名称:マイクロ機械加工可能材料で作られたブレゲ・オーバーコイル・
ヒゲゼンマイ
持ち上げデバイスがクリップ方式です。
私はこの方法が一番確実かなと思いました。
平ヒゲと外端カーブの接続はワンタッチのクリップ式ですし、重量もそこそこ
軽そうです。
製造もどうせ放電加工での削り出しですのでプログラムさえしっかり組んで
いれば量産も簡単でしょう。
いやー、発想が面白い。
シリコン製ヒゲゼンマイの巻き上げヒゲ化ですが、
ブレゲにしては思った以上に力技でした。
でも、面白そうですので是非実用テストしてみてほしいですね。
ひとつ問題があるとすれば「見た目の美しさ」でしょうか?
機能が素晴らしいのはもちろんですが、こと時計に関しては
機能美というか、その出で立ち(佇まい)の美しさというのが重視されます。
それさえクリアできればきっと評価されるのではないでしょうか。
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