ブレゲ「No.169」に関する記事の翻訳
「トゥールビヨン ~時計製造技術の魅力~」に関する記事の続きです。
ブレゲによる世界初のトゥールビヨンとされる「No.169」に関する記事を翻
訳してみました。 ドイツ語とフランス語の翻訳を初めて行いましたので、
間違いがあるかもしれません。 一応、原文を載せましたので、ドイツ語が
理解できる方、指摘がございましたらご連絡をお待ちしております。
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Abraham-Louis Breguet
アブラアン・ルイ・ブレゲ作
Nr.169 Paris um 1809
No.169 (1809年 パリ)
Minutrn mit-Tourbillon Chronometermmung nach Peto.
ワンミニッツ・トゥールビヨン ぺトー式クロノメーター脱進機
1.Guillochiertes Silberzifferblatt mit kleiner Sekunde.
1.ギョーシェ・シルバーダイアル スモールセコンド
Gebläute Breguet-zeiger in stahl.
青焼きされたブレゲ針。
Das Zifferblatt ist – wie häufig bei Breguets Uhern – mit einer Schraube
unterhalb ser XII befestigt.
文字盤のXIIの下にある固定ネジはブレゲの時計によく見られる。
Der sekundenring ist in das Zifferblatt※1 eingelegt.
秒針のダイアル※1は文字盤に嵌め込まれている。
※1 Siehe auch Abb 11
※1 図11を参照
Das Werk ist in einem guillochierten dosenformigen Silbergehäuse
untergebracht.
これにはメッシュ状のギョーシェ彫りが施されている。
2.Ausschnitt mit Drehgestll.
2.回転台座の抜粋
Zweiarmiges Drehgestell mit massiver Grundplatte aus Stahl.
2本のアームが付いた回転台座はソリッド・スチールのベースプレートで
出来ている。
Unter dem rechten Arm s ist mit zwei Setzstiften und einer Schraube die
Stoßsicherungsfeder für die Unruh befestigt.
右アームの下に、天真を保護する衝撃吸収スプリングが2つのピンとネジで
固定されている。
Wie bei Chronometerhemmungen nach Peto üblich, liegen sich
Ruhearm R (rechts unten) und Auslösefeder F diagonal gegenüber.
通常のぺトー式クロノメーター脱進機と同様に、図のR(右下)と
トリガースプリングFは対角線上に位置している。
Dreischenklige Kompensationsunruh mit (nur) 9 Masseschrauben M,
die z. T. als Regulierscheauben mit Kreuzschlitzen dienen.
3本の足を持つテンプには9個のネジがあり(図のM)、これは十字のスリットを
ねじ込むことによって機能する。
Die Spiral liegt (unüblicherweise) unter den Unruhschenkeln,
deren Endkurve ebenfalls nach unten gebogen wurde.
特殊なヒゲゼンマイはテンプのアームに取り付けられており、端末は曲がった
形をしている。
Die Höhenluft für das Lager des Drehgestelles kann mittels eeiner
Schraube (ganz vorn) genau justiert werden.
回転台座の軸受の隙間はネジで正確に調節することができる。
Hemmrad aus Stahl mit 18 Zähnen.
ガンギ車はスチール製で歯数は18枚。
3. Feuervergoldetes Werk mit verstifteter Platine.
3.金メッキされた地板と、施された寄贈プレート
Signiert:John Arnold, London Inven(ted) et Fecit No.11.
署名:「ジョン・アーノルド ロンドン 作品No.11」
Es handelt sich hier um ein Uhrwerk von John Arnold, in das Breguet ein
Drehgestell integrierte.
このムーブメントはジョン・アーノルドのもので、ブレゲはこれに回転台座を
組み込んだ。
Auf einer Silberplatte oberhalb des Drehgestellklobens brachet er
folgenden Hinweis an:
回転台座の上部にあるシルバープレートには、こう記されている。
ler Régulater á Tourbillon be Breguet Réuni á un des premiers Ouvrages d’ Arnold. Hommage be Breguet á la Mémoire Révérée d’Arnold Offert á son Fils An 1808.
「これはアーノルドの最初期の作品に取り付けられた、ブレゲによる初の
トゥールビヨン調速装置である。 ブレゲより敬意を込めて、アーノルドの
敬愛する息子へ送る。 1808年」
-Note-
ジョン・アーノルド:
イギリス人の時計師(1736-1799)
世界初のポケットマリンクロノメーター「No.36」を製作。
1782年にスプリング・デテント脱進機の特許を取得。
アーノルドは息子のロジャー・アーノルドと共に1787年に「アーノルド&
サン」を設立。 ロジャーは一時期ブレゲの元で働いていた。
Das Werk hat Schlüsselaufzug und einen Antrieb über Kette und Schnecke.
この機械は鍵巻きで駆動するチェーンと巻貝状均力車を持っている。
Es ist sehr wahrscheinlich, daß es sich bei der Bezeichnung ler Régulateur á Tourbillon tatsächlich um das erste Drehgestell von Breguet handelt, wie er es in seiner Patentzeichnung※2 vorgestellt hatte.
これは本当に、ブレゲが特許図面※2でイメージしていた台車を動作させる
という、初のトゥールビヨン調速装置である可能性が非常に高い。
※2 Siehe Z26 im Text
※2 Z26のテキストを参照
Aber auch die Uhr in Abb. 4-7 trägt die Bezeichnung: ler Regulateur
á Tourbillon auf der Platie.
しかし、図4~7のメッキプレートにも”トゥールビヨン調速装置”と書かれて
いる。
図4~5:
Nr.282, Paris um 1800 (verkauft 1832)
No.282(1800年製造 、1832年売却)
Minuten-Tourbillon mit Chronometermmung nach Arnold.
アーノルド式ワンミニッツ・クロノメーター・トゥールビヨン
図6~7:
Nr.1176, Paris um 1810
No.1176(1810年製造)
Vier-Minuten-Tourbillon mit échappement naturel.
4分1回転トゥールビヨン 自然排出
Lit.: G. Daniels; Breguet, S. 163
参照:ジョージ・ダニエルズ「The Art of Breguet」項163
British Museum, London
ロンドン 大英博物館
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とても興味深い内容です。
この時計は、時計師としてその腕を認めていたジョン・アーノルドに対する
オマージュだったのですね。
ブレゲはジョンの初期の作品に、彼が生前に特許を取ったスプリング・デテン
ト脱進機を付け、さらに、精度を追い求めたトゥールビヨンを組み込み、
彼の息子ロジャーに贈った。 追悼と敬意を込めて。
私は思いました。
このNo.169はいたずらに人々の前に晒されるものではないと。
本来は、アーノルド家の戸棚にそっと仕舞われているべき思い出の品なの
です。
世界初のトゥールビヨンだとか、そういったことで語られる時計ではありま
せん。 No.169はトゥールビヨンという「時計の歴史」が刻まれている
のではなく、ブレゲ、ジョン、ロジャー、この3人の「人の歴史」が刻まれた
時計だったのです。
人に歴史あり。
偉大なる先人達に、私も時計を捧げることができるだろうか。
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