時計に関する特許を読む。 ブランパン編
時計の知識をもっと深めるために、時計に関係した特許を読むことに
しました。
特許が取得出来ているということは、そのアイデアの価値が公に認められて
いるということです。
これは見方を変えると、こうも考えられます。
「現状、時計にAという問題が存在していて、それを手法Bによって解決する
ことができる」
それを認めた。
つまり、出願された特許を読み深めると時計に関する様々な問題点を知る
ことができるのです。
私が今回興味を持ったのはブランパンの「トゥールビヨンの歩度の不安定要因
を解決する」特許です。
出願番号:特願2010-239705
出願人:ブランパン・エス アー (スイス国)
発明の名称:トゥールビヨンおよび該トゥールビヨンを含む時計ムーブメント
課題:トゥールビヨンが有する歩度の不安定性の原因を改善すること
この特許はA4で10枚もありましたので文言を全て書くわけにもいきませんが、
大まかな構成はこのようになっていました。
・トゥールビヨンの機構とメリット
・現状のトゥールビヨンの問題点
・問題点の解決方法
トゥールビヨンの機構とメリットについてはブレゲに任せるとしまして、
肝心の問題点はこうでした。
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理論上、トゥールビヨンは複数の垂直姿勢の間における歩度の変化を補償するという利点を有している。しかし、出願人が行った研究により、伝達されるエネルギーの変動によりこの利点がしばしば<打ち消されることが分かっている。これらの変動はがんぎピニオンと固定車との中心間距離の遊びによって生じる。この遊びは、遊星タイプのギアを形成するためにピボットが横方向にいくらかの余裕を有してベアリング内に保持されるような、従来型のピボットを使用することが原因である。
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特許の文章は書き方が独特ですが、私はこう解釈しました。
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確かにトゥールビヨンは姿勢差による歩度の変化を補正する利点がある。しかし、ブランパンが研究したところによるとトゥールビヨンは構造上、固定4番車とガンギ車カナとの中心距離が変化する。これにより伝達エネルギーにも変化が生じ、歩度が不安定になりトゥールビヨンのメリットが失われる。
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中心距離は図でも示されていました。
これは時計を立てた状態で考えます。
図Aではa1の距離は設計の想定通りです。
図Bの状態ではキャリッジが引力の影響によりa2の距離が長くなります。
逆に図Cではa3の距離が短くなります。
このように固定4番車とガンギ車の位置に変化が生じると、歯車のピッチ点が
ずれて伝達エネルギーが不安定になり、折角の姿勢差の補正が無駄になる、
とブランパンは言いたいようです。
具体的な症状は以下になります。
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歯車同士が離れ、歯の差し込みが浅くなると「バッティング」というギアの不具合が起こり、伝達される力が減少する。また更にはギア列が動かなくなるという形で現れる。歯車同士が近づき、歯の差し込みが深くなると「ドロップ」というギアの不具合が起こり、伝達される力が増大する。及び速度が不規則になるという形で現れる。
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続けて、これを解決する方法はこうでした。
「固定4番車に接するカナを増やし、キャリッジの遊びを無くす」
なるほど、
キャリッジが下がるのなら、対面側にもカナを付ければよいという訳ですね。
設計では均等に3分割された位置にカナがあります。
ブランパンのフライング・トゥールビヨンに実装している図もありますが、
鳥の翼の位置にカナを追加していますので下図のようになりますね。
試しにFlashで動かしてみました。
(Flashが見れない環境の人は申し訳ない)
う~ん、これは興味深い・・・
ブランパンはリリースしているモデルでこの機構を実装しているので
しょうか。 ちょっと調べる必要がありますね。
それと、特許を読み込んでいく過程で様々な数値を知ることができました。
・キャリッジを支えるホゾの直径は0.20mm
・ホゾ穴の直径は0.21mm
・ガンギ車のホゾは0.09mm
・ガンギホゾを受けるホゾ穴は0.10mm
・時計を水平に置いた状態で、キャリッジホゾの中心とガンギ車ホゾの中心の
距離は3.50mm
・固定4番車のベアリングの隙間は0.005mm
いや~、これも面白い情報です。
時計製造に関する情報がバンバン出てきますよ。
他にもセイコー・インスツルが出願しているものはマニアックな情報
テンコ盛り! これは時間がいくらあっても足りません。
時計の構造や問題点を知りたい人は公開されている特許を読むことを
オススメします。
今後もこうした情報を拾っていきたいと思います。
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